エンジニアの中国ブログ

中国の広東省在住、現地企業勤務のエンジニアです。中国生活で体験したことや趣味の話を中心に発信していきます!

TIMEMORE コーヒーミル|エスプレッソ向けとハンドドリップ向けの違いを検証!【粒度分布や微粉の影響を考察】

スポンサーリンク

 f:id:zhenshux:20191021002243j:plain

一ヵ月ほど前の記事で、中国メーカーのTIMEMORE (タイムモア泰摩咖啡) の手動 (手挽き) コーヒーミル (コーヒーグラインダー) “G1” と “G1S” を紹介しました。(下記です)

 

 

今回はその補足的な話ですが、TIMEMORE (タイムモア) の手動コーヒーミル “G1” と “G1S” の刃の違いをさらに比較検証しました。

ハンドドリップ向けの “G1” とエスプレッソ向けの “G1S” で、それぞれコーヒー豆を挽いた際の違いを具体的に見てみます。

基本的に上記の刃の違いは同社のNano” と “NanoS” や “Slim” と “SlimS” の違いにも当てはまります。(G1シリーズと同種の刃なので)

内容的に検索需要はそれほど多くなさそうですが、趣味なので気にせずにいきます...

ただし、上記の刃の違いが気になっていた人には選択の基準がよりクリアになるはずです…多分…

 

直火式エスプレッソメーカーで使用する際の比較


直火式エスプレッソでもなめらかクレマが出る!

 

ただ単に挽き豆を比べただけではイメージが湧かないと思いますので、実際の挽き豆でコーヒーを淹れて比較してみます。

コーヒーの抽出方法として最近ハマっているのが、上の動画の直火式エスプレッソメーカーのカミラです。(この動画では抽出の様子と抽出時の内部圧力を映しています)

まずはこのカミラでだいたい同じような抽出条件 (抽出圧力と抽出時間) になるように、G1とG1Sのそれぞれで挽き豆を調整した際の、ミルの粒度設定挽くのに要した時間を比較してみます。

ここで比較に使用した豆の焙煎度は中煎り〜深煎りのものを使用しています。

 

 f:id:zhenshux:20191023003755j:plain

 挽き豆粒度は上の写真の右下のダイヤルを回して調整します。

上記のカミラでコーヒーを淹れる際、G1とG1Sのそれぞれで、最適だった粒度目盛りのクリック数は下記のとおりです。(最適とした基準は抽出圧力の最大値が3~4気圧 (カミラは安全弁が4気圧で作動するのでそれ以下) で、抽出時間が90~120秒ほどに収まることです)

  • G110~11クリック/タンピング強め/豆は15g程度充填 (フォルダーに詰まる量はこれでほぼ限界)
  • G1S15~16クリック/タンピング弱め/豆は16g程度充填 (詰めようと思えば17g程度まで充填可能 () )

 

メーカーの説明によるとG1Sの方が微粉が多いとのこと (粒度分布が広い)。おそらくG1Sの方では粒子同士の隙間に微粉が入り込み、均一な粒度のG1よりも高密度に充填できています。(これは粉体工学的には一般的な概念です)

 

▼参考

球充填 (特に6の多種球充填の項目) - Wikipedia

粉の充填性(空間率)に及ぼす粒度分布の影響 - 兵庫県立大学 粉粒体工学研究室

粉体の密充填におよぼす粒子物性の影響|J. Soc  Powder Technol., Japan, 40, 348-354 (2003)

 

▼粒度分布に関してはこちらをご参照ください。

株式会社関西コーヒー |美味しさの探求のための、粉の挽き目について

 

ここで、TIMEMORE (タイムモア) のG1/G1Sの説明書にある粒度のクリックの目安は下記の通りです。(数字が小さいほど粒度が細かい)

  • エスプレッソ6~12クリック (5以下は刃の破損防止のためメーカー非推奨)
  • ハンドドリップ15~24クリック

 

実際に設定できる目盛りの下限は6クリックなので、上のカミラでの検証結果ではG1Sの方がさらに挽き豆を細かくする (言い換えればさらに抽出圧力を高める) 余裕を残しています。(G1Sはまだハンドドリップ領域での粒度設定です。G1の方の挽き豆は、見かけは細粒ですが抽出時の圧力が上がり難いです)

 

また、15gの中煎りの豆を、無理をしないで楽に挽く (あくまで私の主観) のに要した時間は下記の通りです。(中煎りの豆は中深煎りや深煎りに比べて豆が硬く、手動ミルには厳し目の条件です)

  • G1:15クリックで約70秒 (通常のハンドドリップで使用する粒度としてはかなり細かい方)
  • G1:10クリックで約270秒
  • G1S:15クリックで約90秒 ()

G1Sは挽けるのは速いですがそれなりにハンドルの抵抗も大きいので、ミルを斜めにして臼刃に入る豆の量を減らし、比較的に楽に挽ける状態で挽いた時間です。ミルを垂直に立てて挽けば、より早く約70秒で挽けます。一方、G1の方はミルを垂直に立てたまま挽いてもハンドルは軽快ですが、挽ける速度は遅いです。

 

上記のように同じクリック数であれば挽くのに要する時間はそれほど大差がありませんが、例えば上記のカミラで同じくらいの抽出条件にしたいといった、より実用的な基準で比較すると、G110クリック/約270秒に対し、G1S:15クリック/約90秒と、G1Sの方が圧倒的に短時間で挽けるのがわかります。(G1Sの刃を購入した甲斐がありました...)

 

ただし、G1で細挽きの際でも深煎りの豆であれば挽く際に手に感じる抵抗はぐっと減るので、頑張れば挽く時間を半分ぐらいに短縮することは可能です。(G1Sもさらに早く挽けますが…)

 

挽き豆の粒度分布の比較|粒度分布は狭い方が良いのか?

 f:id:zhenshux:20191022013400j:plain

上の写真はG1とG1Sそれぞれで、カミラで同じような抽出条件になるよう粒度を調整した挽き豆です。(左がG110クリックで挽いた豆、右がG1S15クリックで挽いた豆)

左のG1の方がやはりやや細かく見えます。

 

次に上記の挽き豆の粒度分布を、実際に20目~200目の篩を使って確認してみました。(下がその写真です)

f:id:zhenshux:20191022021219j:plain

写真の上段がG1、下段がG1Sで、篩は数字が小さいほど目が粗くなります。

 

なんとなくG1Sの方が粒度分布が広いのがわかると思いますが、よりハッキリさせるため、篩上の粉を計量して%表示に換算したのが下の表です。

 

 f:id:zhenshux:20191022025202p:plain


上の表からG1、G1S共に粒度の最も多いところは40目の篩上の粉で、50目以下の細かい粉の比率はほぼ同じなのがわかります。

ただし、G1Sの方は30目の篩に残った粉も多く、ブロードな粒度分布になっています。

 

つまりこのブロードな粒度分布によって、G1Sの挽き豆はより粒子間がギュッと密着し、粉体が高密度な状態になっている () といえます。(フォルダーに詰められる粉の量はG1Sの方が10%以上多いです)

適度にブロードな粒度分布をもった粉体の高密度化は、粉体工学的には一般的な事柄です。

▼ 参考

粒子径分布の幅が広くなると大粒子間の隙間に小粒子が入り込むので空間率は減少し、密充填できるが、分布が広がることにより充填しにくい微粒子の比率が多くなると、かえって空間率が増加してしまう場合がある。

粉体の密充填におよぼす粒子物性の影響|J. Soc  Powder Technol., Japan, 40, 348-354 (2003)

 

大きな粒度の割合が高くとも、高密度な粉体であることが抽出圧を効率的に上げられる理由で、これはハンドドリップでは湯通りが悪くなり悪影響になるかもしれませんが、エスプレッソの挽き豆としてはいい働きをしています。

 

この2つのミルはキャラが全く異なるわけで、G1 がシャープな粒度分布をもつような挽き豆を得ることを意図しているのに対し、G1Sの方は適度にブロードな粒度分布をもつ挽き豆を、効率よく (速く) 得ることを意図した設計方針であることがうかがえます。

 

ここで、挽き豆の粒度分布についてですが、粒度分布が揃っているから (シャープだから) 良いというものではなく、業務用コーヒーミルで名高いドイツの “マールクーニック EK43” の下記の製品説明をみても、適切な粒度分布を考慮しているのがわかります。

 

  • Outstanding particle size spreads feature high extraction rates and the best possible taste

  • Premium cast steel burrs

  • Robust grinder with high grinding capacity

  ~~以下省略~~

 https://www.mahlkoenig.de/en/node/31

 

というわけで、ただ単に粒度分布が狭ければいい、微粉が少なければいいとも言えず、用途や好みによって正解は異なると思います。

 

まとめ

 f:id:zhenshux:20191023010122p:plain

 

〈ハンドドリップ〉

ハンドドリップではある程度お湯の通りが良い方が、注ぐお湯の量やタイミングで抽出を調整しやすいので、やはり微粉の少ない “G1” の方が使いやすいはずです。(硬い豆でも中挽き、粗挽きであれば、挽く時間も全く問題なく快適です)

 

〈エスプレッソ〉

エスプレッソであれば粒度での抽出調整は必須なので、(極) 細挽き領域での調整の幅の広さと挽ける速さから “G1S” の方が断然有利。

G1” でのエスプレッソ向けの細挽きは、中深煎り、深煎りに限られてくるでしょう。(それでも挽き豆の密度が低めのため、G1Sよりもさらに細かい粒度が必要になり、その労力もそれなりに大変で、かつより強いタンピングも必要になってくるでしょう)

 

というわけで、TIMEMOREの推奨通りの結論で、結果としては当然なのですが、G1とG1SもしくはNanoとNanoSで迷っている場合、自身の用途にどちらが向いているのかイメージがより湧きやすくなったのではないでしょうか? (まだG1Sが日本に導入されてないようなので、エスプレッソ向けはNanoSが選択肢になるのかもしれませんが...)

※エスプレッソ向けはSLIM (スリム) のSタイプも選択肢として増えました。またNanoで挽き豆量が足りないと思う方はSLIMも検討されてみてはいかがでしょうか?

 

 今回、実際に比較してみて、G1とG1Sは個性の違いがはっきりしていて、G1SがG1の上位互換でないことはよくわかりました。

ある意味、ハンドドリップとエスプレッソ向けでは求められる要求性能が相反するものなので、考えただけでオールマイティなミルはなかなか無さそうです...

 

ご自身の用途に上手くフィットすれば、TIMEMOREのコーヒーミルはますます快適に使えると思います! 

 

G1Sも日本に導入されました。

 

こちらはNANOです。

 

こちらがエスプレッソ向けNANO(S)です。

 

また、SLIM(S)は一度に挽ける豆の量が約20gとNANOシリーズに比べて5g程多いため、エスプレッソやマキネッタ (モカエキ3cup以上、カミラなど) の用途で使いやすいと思います。(私は15gでは足りないので)

 

以上、ご覧いただき、ありがとうございました。

 

 

以降では本ブログのコーヒー関係の記事を紹介しています。よろしければご覧ください!

 

下記はお気に入りの直火式エスプレッソメーカーのKamira (カミラ) についての記事です。クレマを上手くつくるにはコーヒーミルでの粒度調整は非常に重要ですが、今回紹介したタイムモアのコーヒーミルは役に立ってくれています。。

 

 

下記は、ロブスタ種のコーヒー豆を使用したときのクレマのつくり易さを、直火式エスプレッソメーカー (マキネッタ) であるカミラで検証した話です。

 

下記の記事では自分なりの手動コーヒーミルの使い方を紹介しています。焙煎したてのコーヒー豆を自分で挽くのは、一番コーヒー豆の香りを楽しめる瞬間だと思います。

 

下記は現在お気に入りのコーヒーミル、Timemore (タイムモア) のG1についての紹介記事です。G1は同社のフラッグシップモデルに相当します。

 

下記の記事はタイムモアのミルのエントリーモデル、タイムモアCについての記事です。ハンドドリップ用に使っています。

 

下記はタイムモアSLIMというコーヒーミルについての記事で、中国の新興企業であるタイムモアのミルを、ドイツの老舗ザッセンハウスが (うっかり?) パクってしまったという話です。

 

下記は、タイムモアのコーヒーミルの普段のメンテナンスについての記事です。普段はほとんどブラシを使った掃き掃除しかしてないです...

 

下記は自宅焙煎を始めた頃の話です。初めから片手鍋に出会っていればとも思いますが、懐かしい思い出です。

 

 

下記は、コーヒーの焙煎用器具として片手鍋を初めて知った話です。ずいぶん遠回りしてしまいました...まさに灯台下暗しでした...自宅焙煎に興味のある方は是非ご覧ください!

 

下記の記事で紹介している片手鍋が現在焙煎に使用しているもので、上記の記事で紹介している片手鍋よりも鍋底が薄いタイプです。(価格も安いです)

 

下記ではあっさりが特徴と言われる雲南コーヒーを紹介しています。現在、お気に入りのコーヒー銘柄です。