今回は、私が最近気に入っているコーヒー器具ブランド “タイムモア (TIMEMORE)" のトピックです。
といっても今回は製品レビューではなく、中国の新興企業であるタイムモアが自社の手動コーヒーミル製品の盗作 (?) に憤り、150年の歴史を誇るドイツの老舗ザッセンハウス (ZASSENHAUS) に対して訴訟を起こしたと報じられたので、その件について紹介します。
- ドイツの老舗と中国の新興企業
- 問題となっている手動コーヒーミルを見てみる
- 問題を時系列で整理
- 中国ブランドは決して「パクリ」の代名詞にはなりません (by TIMEMORE)
- SLIMと同社の他モデルとの比較|タイムモアのミルの種類
ドイツの老舗と中国の新興企業
引用:https://media.weibo.cn/article?id=2309404443195558723602
ドイツの老舗であるザッセンハウスとは?
ザッセンハウスは150年の歴史を誇るドイツのコーヒーミルのメーカーですが、2006年に倒産してしまい、2007年から新しい経営体制 (調理器具メーカーの傘下)で再スタートしています。(ホームページがドイツ語しかありません...)
その品質には高い定評があり、最高峰という声も... (私は名前は聞いたことはありますが、使用したことはありません)
日本での販売元はメリタジャパンが担当しています。
タイムモア (TIMEMORE/泰摩) とは?
タイムモアの公式ホームページによると、タイムモアは2012年に数人のコーヒー愛好家が集まってスタートした会社で、創立間もないコーヒー器具メーカーとのことです。(器具に加えて焙煎豆なんかも販売しています)
たぶん手動 (手挽き) コーヒーミルが一番有名で、私は二つ持っています。
中国メーカーらしくコストパフォーマンスが高いですが、質感やデザインも優れています。
ちなみに下記は本ブログのタイムモアのコーヒーミルに関する記事です。(G1シリーズはタイムモアのハンディタイプのフラッグシップで、Cがエントリーモデルです)
問題となっている手動コーヒーミルを見てみる
問題のコーヒーミルはこちら。
まずはザッセンハウスからですが、ホームページに該当製品 (Barista Pro)の紹介があります。(これは日本では販売されていないようです → 販売が決定したようです)
▼参考 (Barista Proの日本での販売について。価格設定はかなり強気に見えますね...)
次はタイムモア。
ホームページに該当製品 (SLIM (スリム)) の紹介はありませんでしたが、YouTubeの方にはありました。
TIMEMORE: SLIM Manual Coffee Grinder | Easy to hold | 泰摩Slim咖啡磨豆机
タイムモアは1200元 (約20,000円) でザッセンハウスのBarista Proを購入したそうで、比較写真が引用元の記事に多数掲載されています。
引用:https://media.weibo.cn/article?id=2309404443195558723602
上の左がザッセンハウスのBarista Proで右がタイムモアのSLIMですが、判別するのかなり難しく (というか無理)、粉受けの裏のブランドマークぐらいしか違いがわかりません。
中身はどうでしょうか?
下記がそれぞれを分解して並べた写真です。
引用:https://media.weibo.cn/article?id=2309404443195558723602
先と同様に左がザッセンハウスで右がタイムモアですが、内部のパーツまでそっくりです。
しかも粉受けは互換性があり、互いの粉受けを交換して着用することも可能だそうで...
また、下記は粒度の調整ダイヤルの写真です。
引用:https://media.weibo.cn/article?id=2309404443195558723602
ここまで似ていると (同じだと)、偶然の一致で片づけるにはかなり厳しいような気がします。
問題を時系列で整理
2016年 :タイムモアが手にかかる負荷の低減をコンセプトにSLIMを設計
2017年3月23日:タイムモアが中国でSLIMのデザインに関する特許 (注1) を申請
2017年3月末 :上海HOTELEX展示会でタイムモアのSLIM (プロトタイプ) がデビュー
2017年9月29日:さらに細部のチューニング後、天猫モールで販売開始 (この2年で1万個以上を販売)
2018年12月3日:ザッセンハウスがSLIMを包括するデザインに関する下記の特許をドイツで申請 (Design No. 402018204052) 注1)
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2019年5月 :タイムモアが海外のサイトでSLIM (スリム) にそっくりなザッセンハウスの新製品 (Barista Pro) を発見。ここからタイムモアとザッセンハウスのやり取りが始まります。
注1)実際に中国の特許庁でTimemoreのSLIMに関する外観設計専利 (外观设计专利、日本における意匠に相当) の出願時期を確認してもザッセンよりも速いですね。
中国ブランドは決して「パクリ」の代名詞にはなりません (by TIMEMORE)
以下、微博記事からの抜粋の和訳です。
我々 (タイムモア) は各種のオリジナルデザインの証拠をザッセンハウスに出しました。
ザッセンハウスは (アウトソースのデザインパートナーに) きっと騙されたとのだと思いました。
そして、ザッセンハウスの歴史に敬意を払い、友好的に解決案を検討を申し出ました。
今考えてみると、我々は幼稚すぎたのかもしれません。
ザッセンハウスは返信の中で、このミルは確かに彼らが完全に設計したのではないと認めていますが、彼らも多くの努力を割いたと...
そして、ザッセンハウスはSLIM (スリム) のサンプルを見せてくれと言ってきました。
我々はSLIMのサンプルを提供しました。
それから解決策を何度も問い合わせましたが、手に入れたのは、度々の言い逃れだけでした。
返事がない…
休暇をとる...
忙しい…
止めどない遅延…
高慢な言い訳...
半年近くが過ぎました...
相手の冷ややかな対応により、我々はこの模造品の件がだんだんと沈静化しつつあると思っていました。
ひょっとして彼らは真相を理解し、この製品 (Barista Pro) のプロジェクトを中止したのでしょうか?
~~途中略~~~~
2019年のイタリアのミラノ展示会で、参加者の皆さんから熱いフィードバックをいただきました。
我々の製品がヨーロッパに認められたことに喜びを感じています。
ところが、急にスイスのあるお客さんがSLIMを指差して歩いてきました。
「あなた達はオリジナルですか? この製品は明らかにザッサンハウスのものに見えます!」
この言葉で、我々の心の中は突然悔しさと憤懣が満ち溢れてきました。
そして、我々は販売店に通知を出して、彼らのサポートやアドバイスを期待しました。
しかし、我々のいくつかヨーロッパの販売店と大口の取引先は、特許紛争を心配して、続々とSLIMの多額の注文書をキャンセルしてきました。
これらのヨーロッパの販売店は、2018年12月以前から、我々の製品をとっくに販売しています。(※ザッサンハウスの特許の申請日が2018年12月のため、これ以前に特許に含まれている製品が販売されていれば、その特許は新規性が無いので無効です)
あなた方は、まだ私たちを信じられないのですか?
この時、「中国ブランド」に対して海外の深い偏見を感じました。
販売店関係者は我々を信じても、一般の人は信じないのでしょう。
ヨーロッパの人々にとって「中国製」は模造品と同じです。
ドイツの老舗ブランドが、中国メーカーを模倣するとは信じられません。
二つの製品が同じなら、きっと中国製の方が模造品だと思うのでしょう。
~~途中略~~~~
目の前の現実は残酷です。
このような偏見は依然として根強く残っています。
中国ブランドとドイツの老舗ブランドの間にトラブルがあった場合、いくら証拠を出したとしても我々の言葉は無力です。
しかし、我々は自慢できる製品を持っています。
中国ブランドとして勇敢に海外に出て、実力を示したいです。
~~途中略~~~~
私たちはデザインのために、製品のために努力と汗を払いましたが、偏見の前に、容赦なく踏みにじられました。
我々は盗作の被害者であるのに、反対に盗作者と見なされます。
私たちはもう泣き寝入りしないと決めました。
国際特許訴訟に向かいます。
我々は盗作者の特許を無効化し、我々の海外の販売店を安心させ、我々の製品をグローバルに思う存分販売してもらいます。
~~途中略~~~~
中国ブランドは決して「パクリ」の代名詞にはなりません。
というわけで、タイムモアとザッセンハウスの特許係争が始まりました。
実質、タイムモアの特許は中国国内、ザッセンハウスの特許はドイツ国内でしか有効ではないので、お互いにそれぞれの国でビジネスをしなければ特許的には問題はありません。(ザッセンハウスの方がMade in Chinaであれば問題になるかもしれませんが...)
むしろタイムモアの方はドイツのザッセンハウスの特許の無効化し、ドイツの老舗ブランドにコピーされるようなブランドとして、自らのブランドイメージの回復や向上を狙っているのでしょう。(ヨーロッパ向けのよいプロモーションになることを期待しているはずです)
これまで中国メーカーのブランド価値を低下させたのは中国メーカーの自業自得な面もあると思いますが、個人的には今回の件はタイムモアの方を応援しています。
中国で働いているので肌で感じていますが、中国メーカーもピンキリで、中国メーカーを一括りで応援する気には甚だなれませんが...
ただし、オリンピックではないので日本メーカーに対しても、日本だからという理由で一括りで応援する気持ちもないです。
SLIMと同社の他モデルとの比較|タイムモアのミルの種類
今回、タイムモアのSLIMをあらためてチェックしてみて、気付いたのは日本でエスプレッソ向けSタイプが販売開始されたことです。
日本だとSタイプがNanoしかありませんでしたが、Nanoの場合、一度に挽ける豆の量が約15gで、エスプレッソでダブルにした場合や、マキネッタでいうとモカエキスプレスの3cup以上やカミラ (Kamira) といった用途では挽ける豆の量的に十分ではありませんでした。
一方、SLIMの一度に挽ける豆の量は約20gで、これらの用途にも対応できます。
そのため、タイムモアのミルでエスプレッソ向けが欲しかった人には、SLIM(S)の方がおススメです。
また、その他のSLIMの特徴としては、まとめると下記の通りです。(G1SやCでの使用感からコメントしています)
- 持ち易さ :直径が45mmとシリーズ中で最細 (他は直径約52mm)、かつ表面の滑り止め立体パターン → シリーズ中一番持ち易く、手が小さい人にはうってつけだと思います。
- 質感 :アルミ削り出しの本体ボディ+木製パーツ → G1やNano相当
- 豆挽き性能:ダブルベアリング機構と共通の臼刃 → G1やNano相当 (私はエントリーモデルのCでも違いはあまり感じられませんでした...)
- 重量 :G1 (560g) / SLIM (440g) / C (430g) / Nano (360g)
- Sタイプ :日本にも導入済み
- 豆挽き量 :G1 (約25g) / SLIM (約20g) / C (約20g) / Nano (約15g)
- 豆の投入 :Cで若干気になったのは、ハンドリング側のベアリング固定部品が豆の投入時に若干邪魔になることですが、SLIMはベアリングが奥まったところにあるので問題なさそうです。(これはアルミ部品の強度が十分にあるため、G1やNanoと同様にこのような配置ができるのだと思います。Cは樹脂パーツなので負荷を低減するため、ハンドルに近づけているのでしょう)
- 価格 :NanoとCの中間 (ハンドルのギミックが無い分だけNanoよりも安い)
以上、タイムモアのSLIMが気になる人のご参考までに... (私はもしG1Sを持っていなかったら、このSLIMのSタイプを購入したと思います...後継機種を購入しました...)
現在、楽天やYahoo ショッピングではSLIMの取り扱いがないかもしれません。Amazonでは色とノーマルかSタイプかの選択ができます。
2020年10月05日現在、中国ではSLIMやG1のノーマル刃とSタイプの臼刃が新規の臼刃で一本化され、新グレード (Plus) がリリースされました。(中国現地調べ)
ご興味のある方は、下記の記事をご参照ください!
以上、ご覧いただき、ありがとうございました!
以降では本ブログのコーヒー関連の他の記事を紹介しています。よろしければどうぞ!
下記はお気に入りの直火式エスプレッソメーカーのKamira (カミラ) についての記事です。クレマを上手くつくるにはコーヒーミルでの粒度調整は非常に重要です。
下記はカミラのフィルターホルダーへのコーヒーの充填性を改善するために、なんちゃってファンネルをつくった話です。
下記は、ロブスタ種のコーヒー豆を使用したときのクレマのつくり易さを、直火式エスプレッソメーカー (マキネッタ) であるカミラで検証した話です。
下記の記事では自分なりの手動コーヒーミルの使い方を紹介しています。焙煎したてのコーヒー豆を自分で挽くのは、一番コーヒー豆の香りを楽しめる瞬間だと思います。
下記は現在お気に入りのコーヒーミル、Timemore (タイムモア) のG1についての紹介記事です。G1は同社のフラッグシップモデルに相当します。
下記はタイムモアのミルのハンドドリップ用とエスプレッソ用の刃の違いを検証した記事です。ここではタイムモアのG1とG1Sで比較していますが、他のモデルと刃の形状は同一なので、傾向は他のモデルにも当てはまると思います。
下記の記事はタイムモアのミルのエントリーモデル、タイムモアCについての記事です。ハンドドリップ用に使っています。
下記は、タイムモアのコーヒーミルの普段のメンテナンスについての記事です。普段はほとんどブラシを使った掃き掃除しかしてないです...
下記は自宅焙煎を始めた頃の話です。初めから片手鍋に出会っていればとも思いますが、懐かしい思い出です。自宅焙煎した新鮮なコーヒー豆を使うとカミラのなめらかなクレマも非常につくり易いです。
下記は片手鍋に出会う前の記事で、焙煎器具として煎り上手や手網を比較した記事です。しかし、現在、片手鍋が一番気に入っています。
下記は、コーヒーの焙煎用器具として片手鍋を初めて知った話です。ずいぶん遠回りしてしまいました...まさに灯台下暗しでした...自宅焙煎に興味のある方は是非ご覧ください!
下記の記事で紹介している片手鍋が現在焙煎に使用しているもので、上記の記事で紹介している片手鍋よりも鍋底が薄いタイプです。(価格も安いです)
下記ではあっさりが特徴と言われる雲南コーヒーを紹介しています。現在、私のお気に入りのコーヒー銘柄です。
下記はちょっと毛色が異なりますが、中国語のコーヒー用語をまとめました。