今回のテーマは、以前に紹介した電気式の鍋型焙煎器を使用した焙煎における焙煎時間短縮についての検討・・・
・・・だったのですが、それを ”きっかけ” にして新しい焙煎処方を見出しましたので、そこまで含めてまとめたいと思います。(少し大袈裟ですが... )
▼参考:電気式の鍋型焙煎機についての記事
先に新しい焙煎処方について触れておくと、使用する焙煎器は電子レンジです。
熱源として電子レンジのみを使用して、下記のような比較的均一な焙煎豆が短時間で得られます。
上記は2ハゼ開始直後に煎り止めたものです。(焙煎時間は生豆150gで10分弱といったところです)
焙煎の熱源として電子レンジを使用することは手法として新しくないですが、ここまでムラの少ない例を提示しているサイトや動画は見当たりません。(自分で調べた限りですが...)
既に焙煎経験のある方であれば気付くと思いますが、この電子レンジでの焙煎ではマイクロ波の特徴により、短時間焙煎における芯残りや表面焦げといった従来の小型焙煎器の課題をほぼ解消できます!(マイクロ波により内部から加熱できるので)
特別な器具は必要ないので、現在の自宅焙煎で上記の課題を感じている方には是非試して頂きたい方法です。
興味のある方は、是非ご覧ください!
- 電気式鍋型焙煎器の課題|
- 取り合えず電子レンジで生豆を加熱してみる|過去に誰かやっているの?
- 電子レンジの活用方法|コーヒーの焙煎
- 補足1) マイクロ波焙煎の最新の研究例
- 補足2) 本記事を参考に電子レンジ焙煎を実践した方の記事
電気式鍋型焙煎器の課題|
左側が片手鍋、右側が電気式の鍋型焙煎器
電気式鍋型焙煎器の課題 (ユーザーとしての個人的な感想)
◆焙煎に時間がかかる (出力Max、生豆300gで2ハゼまで30分弱)
- 風味が弱め (よく言えばマイルド...)
- 投入温度を高温にすると雑味が増加 (表面焦げと推定/時間短縮効果も小さい)
- 生豆200gに量を減らすと1ハゼと2ハゼの間隔が長く (10分程度)、やはり雑味は多い印象 (1ハゼ以降の温度が上がり難い/トータルの焙煎時間も7~8分程度しか短縮できない)
以上から、下記の参考サイトにもあるような焙煎時間の短縮策として、生豆の電子レンジでの予熱を考えました。
▼参考:電子レンジを下煎り (予熱) に使用している例
▼参考:風味と焙煎時間の関係についての説明 (焙煎時間をコントロールする目的がわかります)
珈琲豆が持つ『本来の香味』を強くする方法を解説【自家焙煎珈琲】
▼参考:電子レンジを活用したい焙煎初期の時間帯は水抜きと呼ばれる重要な部分で、ここを速やかに通過しないと渋みの原因になり安いです。
また、急ぎ過ぎて水抜き不十分でも芯残りと呼ばれる状態になり、渋くなりがちです。
例えば、水抜きのときに「高温多湿」の領域に長く留まると、クロロゲン酸の加水分解が促進されて減少し、強い渋みのカフェー酸とシャープな酸味のキナ酸が増加します。
引用:コーヒーの科学 「おいしさ」はどこで生まれるのか (旦部幸博 著)
取り合えず電子レンジで生豆を加熱してみる|過去に誰かやっているの?
そして、取り合えず ‟電子レンジで生豆を加熱してみたらどうなるのか"、確認の意味で試してみたのが上の写真です...
感じ方は人それぞれだと思いますが、この結果を見て予熱だけでなく最後まで焙煎できるのではないか?と感じました... (これでコーヒーを淹れてみたら、意外にけっこういけたんです...)
白っぽい豆でも中まで火が入っていますし、黒い豆も焦げ臭さはありません...
そこで、電子レンジ、もしくはマイクロ波を使用した焙煎が過去にどの程度検討されているのか調べてみました。
【参考資料】
▼資料1:探した中で一番古い文献 (既に失効していますが、約30年前にマイクロ波によるコーヒーの焙煎方法が特許化されていました)
US4326114A - Apparatus for microwave roasting of coffee beans - Google Patents
▼資料2:電子レンジを使用したコーヒーの焙煎に関する特許出願 (既に取り下げ済み)
JP2012090616A - 電子レンジを利用した焙煎、煎り工程並びに攪拌加熱に関する装置 - Google Patents
※上記の特許出願ではマイクロ波で直接コーヒー豆を焙煎せずに、磁性体容器でマイクロ波を遠赤外線に変換しての焙煎になっています。(加えて容器内に水を入れて加熱水蒸気を利用)
▼資料3:今の電子レンジではコーヒーの焙煎をすることは難しいとのことで、乾燥工程での電子レンジの活用を推奨
コーヒー豆を電子レンジで焙煎する時代【コーヒー界に革命を起こす技術革新の兆し】|Mickey@コーヒー好きエンジニア|note
▼資料4:資料1でもマイクロ波の設備の検討例を挙げましたが、実際に業務用で販売されているマイクロ波によるコーヒーの焙煎設備の例です。(中国のサイトで見つけました)
▼資料5:専用設備を用いた中部電力の検討例
マイクロ波併用粉体加熱装置によるコーヒー焙煎豆の熱処理の影響 (pdf file)
▼資料6:電子レンジを改造した装置での検討例 (攪拌用モーターや排煙ファンも取り付けています。風味は良好とのこと)
もっと知りたいコーヒー学 - 広瀬幸雄 (Amazon リンク)
以上、業務用ではコーヒーの焙煎にマイクロ波が既に使用されているようですが、家庭用の電子レンジそのままでは予備加熱での使用に留めるのが主流のようです。(資料6に改造しての使用例はありませしたが、素人にはハードルが高いです...)
電子レンジの活用方法|コーヒーの焙煎
電子レンジで焙煎する際の課題
自分でちょこっと電子レンジ焙煎をやってみて感じたその課題は、下記の通りです。
- 発生した熱や臭気のレンジ内への拡散・放出の抑制
- 効率的な撹拌方法の確立
実は過去の資料を調べながら改善のためのアイデアは既に思い浮かんできていて、誰もやっていないんだな~と思いながら資料を見ていました...
そのアイデアには片手鍋での焙煎経験が生きています。
▼参考:本ブログの過去の記事
片手鍋による焙煎の特徴として、豆から出て来た水分による蒸し焼き効果が挙げられます。(生豆は大体10〜13%程度の水分を含んでいます)
そして、下記の図にありますように、温度上昇と共に豆から水分が抜けていきます。
片手鍋焙煎の場合は蓋をして容器の密閉度を上げているので、容器内は軽い加圧状態で水蒸気が充満しています。
この水蒸気により鍋焙煎では容器に接する部分からだけの熱伝導に限らず、水蒸気の存在により効率よく豆に熱が加わっていると考えています。
簡単に言えばこの軽い密閉効果を電子レンジへ応用することで、先に挙げた2つの課題を同時にクリアできます!
- 発生した熱や臭気のレンジ内への拡散・放出の抑制
- 効率的な撹拌方法の確立
実は容器がポイント
下記のようなサイズの異なる耐熱ガラスの容器を用意し、小さい方を蓋代わりにして重ね合わせました。
下記のように重ね合わせています。
右は耐熱グローブで、レンジからこの容器を取り出したらこの容器ごと振って攪拌します!
実際は容器を振った際に豆が飛び出ないように隙間にティッシュを詰めています。
ティッシュは有機物を含んだガスを吸着するフィルターの役目も幾分は果たしています。
ご覧のように密閉度の高い容器で中の水分やガスをある程度閉じ込めることが可能です。
ただし、密閉性を高くし過ぎると香りが弱くなる傾向がみられましたので、調節した方がいいと思います。
1ハゼ付近でみると密閉度をより高めた方が、豆の着色もやや薄めでした...
自分の場合は開始から5〜6分程度で容器内に付着した水分が無くなるぐらいに、容器の密封度合いを調整しています。(1ハゼ開始で8分前後を目標にした場合で、焙煎度や豆種によって調整は必要と思います)
撹拌は一定間隔で容器ごとレンジから取り出し、容器ごとよく振ります (耐熱グローブ着用しないと熱くて持てません...)
以上、勿体ぶりましたが、これだけです…
出力700Wの場合は30秒毎の撹拌でムラはかなり低減しますが、味に広がりを持たせた場合は敢えて撹拌間隔を長くし (例えば1分間隔など)、ムラを与えてもよいでしょう。
焙煎終了後の容器は下記のようにべっとり付着分があります。(ティッシュも部分的に茶色くなっています)
下記は700Wで12分ほど深煎りまで焙煎したときの様子です。(生豆は150gの仕込み量)
焙煎している様子 (動画)
上記で述べた電子レンジで焙煎している様子を下記の動画にまとめました。
電子レンジによる煎り分けの例
参考までに出力700Wの場合、30秒毎の撹拌で2ハゼまで10分弱です。(生豆150g、量を少なくしたり撹拌頻度を減らすと時間はもっと短くなります)
慣れれば下記のように煎り分けることも可能です。
なお、皺の伸びて来るタイミングは他の焙煎方法に比べて遅いので、煎り止めの目安にしている場合はご注意を… (目標よりも進み過ぎる場合があります)
◆浅煎り(1ハゼ終了)
◆中深煎り(2ハゼ開始)
◆深煎り(2ハゼピーク)
芯残りや表面焦げの問題はほぼ無いと言ってよく、燻り臭も感じられません (焙煎時間も短いからかもしれません...)
浅煎りや深煎りといった焙煎度でも比較的容易に焙煎できます。
で、肝心の風味ですが鍋焙煎よりも雑味が少なく、クリアで美味しく感じられます。
今まで雑味で隠れていた甘みが出てくるような印象です。
これは前述の書籍 (資料6)にある著者の広瀬氏のコメントにも矛盾しないと思います。
調理器具として、現代人になくてはならないものが電子レンジ、その加熱方法はマイクロウェーブ加熱。電子レンジ焙煎機をつくって、そのコーヒーを飲んでみたら、実にクリアでおいしいコーヒーができたのである。
もっと知りたいコーヒー学 - 広瀬幸雄 (Amazon リンク)
もちろんこの方法は他の焙煎の前工程での活用も可能です。(豆の種類や焙煎度によっては煙も多いので…)
手網や片手鍋焙煎といった家庭用焙煎器で限界を感じられている方にはぜひ試して欲しい手法ですね。
以上、電子レンジを利用したコーヒー豆の焙煎方法の紹介でした。
補足1) マイクロ波焙煎の最新の研究例
台湾の大学の話ですが、マイクロ波を使用したコーヒー焙煎機のトピックがあったので挙げておきます。
補足2) 本記事を参考に電子レンジ焙煎を実践した方の記事
本記事を参考にコーヒーの電子レンジ焙煎に足を踏み入れた方の記事です。
こちらも是非ご覧ください!
以降では本ブログのコーヒー関連の記事をいくつか紹介しています。よろしければどうぞ!
下記は現在の自宅焙煎で焙煎器として使用している片手鍋に行きついた経緯などをまとめています。(これからは電子レンジ中心になると思います...)
下記は現在使用している片手鍋とその選定基準などに関しての記事です。(片手鍋にも材質やサイズなど色々と選択肢があります) 昨年から10ヵ月ほど、現在の鍋を使用しています。
下記は電動の鍋型焙煎機についての記事です。鍋焙煎が気に入っているので、同じような感じで焙煎できそうな電動焙煎機を買ってみました。焙煎条件は限定されますが、まずまずの買い物でした。(マイルド条件な焙煎では使いやすいです)
下記はあっさりが特徴と言われる雲南コーヒーの紹介です。現在、私のお気に入りの銘柄です。(農園直送で購入しています)
下記はTIMEMOREという中国ブランドのコーヒーミルについての記事です。私はこのTIMEMOREのミルを気に入っていて、これを使用して毎日コーヒーを淹れています!