中国に来て半年ほど過ぎました。
来たばかりの頃は、中国で最もポピュラーなお酒 "白酒" を美味しいと思うことはありませんでしたが、最近は不思議と少し美味しく感じています。
特にその匂いがフルーツ (あえて例えるとメロン) のような爽やかなものに感じることがあり、自分でも驚いています。
今回はその白酒について、最近気になったことを自分なりに調べてみましたので紹介します。
白酒の瓶熟成は中国人の常識!?
中国の白酒は蒸留酒の一種で、中国で最もメジャーなお酒です。(白酒は簡単にいえば中国の焼酎です。ちなみに紹興酒は中国では意外にマイナーですね)
その白酒ですが、これまでに3回ほど瓶のままで5年ほど保管されたものを飲んだことがあります。(会社の同僚の差し入れで、同僚の家で普通に室温保管されていたものです)
飲んだ感想ですが、不思議とまろやかで、非常に飲みやすいお酒に変わっていました。(最近の同銘柄の白酒との比較です)
同僚曰く、“開封しないでそのまま保管すれば、熟成してうまくなる” とのこと。(熟成という用語は不適当かもしれませんが、ここでは熟成とします)
彼はその熟成にまわす分の白酒を毎年買い足していて、イベントやゲストに応じて、その熟成させた白酒を持ってきてくれます。
味に関しては、私の知る限り飲んだ人たち全員がその熟成の効果を認めるほどの違いで、白酒が瓶のまま熟成して美味くなることは、多くの人の共通認識でした。
また、同じ蒸留酒であるブランデーやウイスキーでは、瓶のまま保管することによる熟成効果は感じられないとのことで、不思議な現象です。
いったい白酒の中で何が起きているのでしょうか?
気になったので、今回、白酒の瓶熟成について少し調べてみました… (瓶のまま保管して美味しくすることを、ここでは瓶熟成といってしまいます!)
白酒の瓶熟成のヒントは日本の泡盛にあり
日本語のWebサイトや文献だと、白酒の瓶熟成と関係がありそうな情報は得られず...
その代わり、日本のお酒である “泡盛” では白酒と同じく、瓶熟成の話がちらほら見つかりました。
例えば下のブログ。
いくつかのWebサイトから得られた、泡盛の瓶熟成のまず手掛かりになる知見は下記の通り。
- 酸類、フェノール類といったアルコールや水以外の油性成分が、泡盛は他の蒸留酒であるウイスキーやブランデーよりも多い
- これが瓶詰後に変質し (劣化というべきか...)、風味を増したり、口当たりをまろやかにする何らかの因子となる (仮説)
上で仮説と書きましたが、その技術的な裏付けをとるような研究も沖縄県工業技術センターで実施されています。(瓶で保管した場合でも一部の成分変化はすでに確認されています)
研究報告/沖縄県工業技術センター (PDFファイルで研究報告が収納されています)
ちなみに上記の研究報告の中には沖縄のお酒の歴史を調査した文献も収められており (中世から近代における琉球・沖縄の酒について)、中国の蒸留酒の技術を使用して、琉球の蒸留酒づくりが始まった可能性も指摘されています。
案外、泡盛のルーツは白酒なのかもしれませんね...
白酒の種類や製法に関しては、下記の文献に詳しく説明されています。(宝酒造の方が書かれた文献です)
中国の白酒と香気 (花井四郎、日本醸造協会誌)
上記の文献からもわかるように白酒の製法や原料はとても多岐にわたっているので、すべての白酒が瓶熟成するとは限りませんが... (私が実際に飲んで確認したのは茅台酒と剣南春という銘柄だけです)
白酒中の酸成分やフェノール類などの油性分が、泡盛やブランデー、ウイスキーと比べて多いのか、少ないのかといった直接の比較は、今回は残念ながら見つけられませんでした。
ただし、剣南春と同じ “濃香型白酒” に分類されている五粮液なんかは水と混ぜると白濁すると言われていて、水に混ざりにくい成分、すなわち油性分が多く含まれていることがうかがえます。(単に油成分が多いというだけでなく、熟成にかかわる油性分が多く含まれていることが必要ですが...)
※蛇足になってしまいますが、中国では白酒は基本的にストレートで飲みます。水割りにすると極端に風味が落ちてしまって白酒っぽさはなくなってしまいます。このことは上記の油性分が関係しているのかもしれません。
なぜ、瓶のまま保管しただけで熟成するの?
ここまでから、白酒の瓶熟成に対する私なりの推定理由は下記のとおりです。
- 白酒には熟成にかかわる多くの油性分が含まれている。(泡盛同様に)
- 瓶で保管中にそれらが変質し、口当たりをまろやかにする成分となる。
お酒の熟成とは何かもう一度考えてみる
ん~、自分で書いていても②のところがぼやけていて、もう少しはっきりとさせたいですね...
実際に飲んで比べてみると、かなり違いが大きかったので気になります。
そこで、酒の熟成とは何か?もう少し調べたところ、下記の大学教授の文献が見つかりました。(大学の研究テーマになるほど酒の熟成は奥深いんですね...)
熟成に関して化学の視点からわかりやすく書かれている文献でしたが、特に印象にのこった箇所が3つあります。
まず1つ目、
あらゆる酒は、その主成分が水とエタノールでありながら、単なる「水-エタノール混合物」とは、明らかに異なっている。酒は人が飲用できるものであるが、「水-エタノール混合物」は飲用可能な状態にはないので、通常は誰もロにはしない。それでは、一体、酒と「水-工タノール混合物」はどこが違っているのだろうか。
この部分を読んではっとしました...
そうなんです、単なる水とエタノール (アルコールのこと) の混合物だったら、刺激があったり、不味かったりで飲めるわけないんですよ。
それがアルコール度50%前後もあっても飲める白酒の不思議なこと...(しかも翌日に残りにくい)
飲み比べたことがある方であればわかると思いますが、お酒の飲みやすさはアルコール度数だけではまったく判断できません。
単なる「水とアルコールの混合物」とお酒の違い、これこそが熟成に大きく関係あります。
次に2つ目、
「熟成した酒」または「まろやかな酒」の中では、水とアルコール間の相互作用が強くなっているという考えは、酒の熟成を研究している化学者によって共有されている概念といえる。
上記にあるように、“水とアルコール間の相互作用が強くなることがお酒をまろやかに感じる直接の原因” だと化学者の間で考えられています。
それでは、なぜ水とアルコール間の相互作用が強くなるのでしょうか?
水ーエタノール混合物が飲料可能 (または飲みやすい) 状態に変化するには、時時間経過が必須な場合もあるが、全ての場合に当てはまる条件ではない。アルコール発酵に伴う過程で生成するなど、当初から酒中に十分量存在していたか (醸造酒)、酒自身が樽の中で時間をかけて獲得していくか (長期熟成蒸留酒)、または、人為的に添加されるのを待っているか (カクテル) は問わず、飲む酒の中には酸類やフェノール成分が存在して必要がある。
上記にあるように酸類やフェノール成分の存在によって、水とアルコール間の相互作用が強くなることが確認されています。
したがって、白酒の場合、瓶で保管している間に油性分が変質し、酸類やフェノール成分もしくは同じような役割をする成分が生成すれば、水とアルコール間の相互作用が強くなることが期待できます。
まとめ
以上から、“なぜ白酒が瓶熟成するのか” 、私なりの推定理由をまとめると下記のとおりです。
①白酒には熟成にかかわる多くの油性分が含まれている。
②瓶で保存中に、油性分から酸類やフェーノール成分といった直接熟成に関与する成分が生成する。
③上記の生成した成分によって、水とアルコールの相互作用が強くなり、白酒の口当たりがまろやかになる。
私は中国に来るまでお酒に関してそれほど興味はなかったので、今回、調べてみてかなり勉強になりました。
特に中国に来るまでアルコール度の高いお酒はどちらかというと飲まず嫌いだったので、楽しみ方が増えたような気がします。(日本のお酒だったら泡盛なんかが価格も手頃なので、気になっています)
ちなみに上の写真の茅台酒を1本、日本の自宅で瓶熟成してみることにしました。(旧正月休み、せっかく茅台酒を2本、日本に持ち帰ったのに人気がなかったので...)
この茅台酒は白酒の1つのブランドで、中国では高級酒として知られています。(特に年代物はプレミア価格になります)
いつか中国の仕事を辞めて日本に戻ったころ、ゆっくりとこの熟成した茅台酒を味わってみようかと思っています。
ちなみにこの茅台酒は日本のAmazonでも購入できます。 (日本の方が中国よりも少し安く購入できますが、それでも高いです...私はというと会社から貰いましたので...)
それでも興味のある方は是非!(グラスも2個、付いてきます)
以上、ご覧いただき、ありがとうございました。