現地採用エンジニアの中国日記

中国の華南地区(深圳周辺)で、現地採用で働き始めたエンジニアです。これから中国で働く方の参考になるような情報を発信をしていきます!

革靴をより深く理解する|安藤製靴の革靴の分解

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今回のトピックは革靴の分解、とくに安藤製靴のホットスタッフという革靴の分解です。

ご興味のある方はどうぞご覧ください。

 

<目次>

 

退職後の休暇中に取り組んだこと

勤務していた日本の会社を辞めてから、休暇を2か月ほど取りました。

中国に行く準備でいろいろと大変でしたが、久々の解放感に浸りながら本当にのんびりできました。

 その休みを利用して、以前からやってみようと思っていた2つのこと取り組めました。

 

1. ブログの開設

1つ目はブログ開設で、このブログです。(人生初ブログです)

WordPressは敷居が高くみえたので、「はてな」+「独自ドメイン」に取り組んでみました。

スタートしたばかりでまだまだ手探り状態ですが、 休み中になんとかGoogleアドセンスの導入までは漕ぎつけました。(形だけでもブロガーの真似をしたかっただけです)

肝心の内容の方はまだまだ試行錯誤中です...

 

2. 革靴の分解

2つ目は革靴の分解で、それも先に記事にした安藤製靴の革靴の分解です。

革靴は、素材工場の機械職人のスキル工芸使い手の嗜好相反する特性 (例えば履き心地と堅牢性) といったいくつもの要素が絡みあって製品になっていて、単純な工業製品ではありません。

自分がエンジニアであることも関係しているかもしれませんが、このような複雑要素から造り上げられ、しかも自分で体感できる革靴に非常に惹かれています。

革靴というとスーツにあうようなドレスシューズにハマる人が多いと思いますが、私の場合、普段スーツは着ないのでカジュアルに使える安藤製靴の革靴にハマりました。

そうこうしているうちに、履いたり、手入れしたりしているだけでは物足らなくなり、いつしか分解して見えていない部分を見たいと思うようになりました。

しかも、インターネットで探しても安藤製靴の靴の分解に関しては出てきませんので、これは自分で分解してみるしかないと思っていました。

そのため分解する靴は前々から入手してありましたが、仕事も落ち着かなかったこともあり、なかなか実行できませんでした。

しかし、今回、ついに念願の分解、しかも安藤製靴の靴を分解することができました。(大人の夏休みの自由研究です!)

どれくらいの需要があるのか全く不明ですが、これは知りたい人にとっては貴重な情報だと思いますので、ここで共有したいと思います。

 

安藤製靴の革靴の分解<実行編>

 分解する靴:ホットスタッフ

今回、分解する靴は安藤製靴のホットスタッフというオーソドックスなプレーントゥタイプの革靴です。

入手経路は内緒ですが、旧持ち主には分解の了承を得ています。(使い込まれていませんが、10年ほど前に製造されてものです)

           

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図1. ホットスタッフ (安藤製靴)

 

このホットスタッフに使用されている革 (オイルドプルアップレザー) の色ムラ感も私の好みですが、覚悟を決めて分解を始めます。(ちなみに私にはサイズが小さいので履けません)

 

アウトソールの分離

まずはドライヤーで軽く温めて、アウトソール (ビブラム製のラバーソール) を剥がします。

ペンチと楔を使って、じわじわとなんとか剥がしました。(接着剤でくっついています)

下がアウトソールを剥がした写真になります。

 

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図2. 横からみたところ 

 

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図3. 裏側からみたところ (左がアウトソール、右側がミッドソール)

 

写真ではわかりませんが、ビブラムソールの内側の踵の部分にはMade in Itaryの記載があります。

図3の右側に見えているのはミッドソールを裏側から見たところで、白いステッチは出し縫いの糸です。

ここまでは外側からのイメージ通りで、続いて、ミッドソールの取り外しにかかります。

 

ミッドソールの分離

ここからが本題ですが、まずはミッドソールの出し糸を外していきます。

 

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 図4. 出し糸とミッドソール

 

裏側から見えている出し糸をカッター切断して、アッパー側から見えている出し糸をラジオペンチで引き抜きました。(図4)

図4に見えているのが引き抜いた出し縫いの糸で直径は2mm程あり、縫われている状態で見るのよりもかなり太く感じます。

次にミッドソールをゆっくりとめくっていきます。(手応えがあるので、接着剤も使われていそう...)

 

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図5. ミッドソールを剥がしているところ

 

ついに、隠されていた部分が顔を出してきました!

上の図5で白く見えているのは発泡体らしく押すと潰れますので、おそらくクッション材の役割を果たしていると思います。

一部、ミッドソールと固着していて千切れてしまいました。

もしかしたら、温めればもっとスムーズに剥がせたかもしれません。

 

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図6. ミッドソールの分離後 (左がミッドソール)

 

図6の左側が革のミッドソールで厚みが約4mmあり、とても頑丈です。

少し苦労しましたが、ミッドソールがなんとか分離できました。

次は白いクッション材を除去していきます。(クッション材の材質は不明ですが、厚みは約3mmあります)

これは完全に接着している上に脆いので、こそぎ落としていくしかありません。

 

クッション材の分離

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図7. クッション材を剥がし中

 

クッション材を剥がしていくのはかなり面倒です。

図7に見えている部位は外側からアッパー、爪先の補強材、インナー、リブとなっています。

リブは布テープと芯材で構成されています。(芯材を布テープで上から抑え込んでいる感じ)

 

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図8. 中底の裏側

 

ようやくクッション材を除去すると図8のようになります。

中底を補強しているシャンク (感触からおそらく木製) は、とても強力に中底に接着していて剥がせそうにありません。

中底の裏には文字が記載されています。(下が拡大図です)

 

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図10. 中底の裏側 (拡大図)

 

図10から中底の裏側に記載の文字がわかりますか?

これは「Webron® 437」と書いてあり、武田産業という会社の登録商標です。

これはペーパーボードと呼ばれるもので紙繊維とラテックス (ゴム系材料) の複合物とのことです。(この材料はすでにメーカーの武田産業の方で製造を中止しているので、現在の安藤製靴の靴は別の材料で代替しているのでしょう)

おそらくこのペーパーボードは中底の補強を目的に使っていると推定しますが、同時にリブやシャンクとの接着が非常に強固にできているのもこの材料の性質ではないかと思います。

リブなどを革製の中底にダイレクトで強力に接着しようとすれば、革表面への密着力を向上させたり革表面を丈夫にしたりするようなプライマー処理が必要になると推定しています。(リブなんか特に接着面積も狭いので強接着が難しいと思います)

つまり、中底の補強とプライマー処理を兼ねて、このペーパーボードを使っているのではないかと推定しています。(一般的にペーパーボードは革よりも接着しやすいです)

 

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図11. リブの側面図

 

中底とアッパーの分離

いよいよ次は、中底とアッパーの分離です。

図11に見えるすくい糸を外していきますが、これは接着剤で固まっていて切り取るしかありません。

図11でいうと、インナーとリブの間にカッター入れてカットしていきます。

 

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 図12. 切り取ったすくい糸

 

図12は切り取ったすくい糸ですが、接着剤でコチコチになっています。

下は取り出した中底の全体像です。

 

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図13. 取り出した中底

 

下はリブ周辺の拡大図です。

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 図14. リブ周辺の拡大図

 

リブの凸部の幅は約4mmで、高さは約3mmです。

よく見ると凸部の上部には布テープがなく、両サイドに貼られて固定されていました。

このようにテープを貼るのは非常に難しいと思いますので、最初にリブの芯材を覆うように布テープを貼り、その後で、インナーのはみ出し分を除去する際に、リブ凸部上部の布テープも一緒に削り取られているではないでしょうか?

 

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 図15. リブ周辺の断面図

 

上の図は、リブ周辺の断面です。

製靴書 (誠文堂新光社、P17) によると、一般的なグッドイヤー製法の靴だとリブの高さが5mm程度中底の厚みが2mm程度のようです。

一方、この安藤製靴の靴はリブの高さが約3mmで、中底の厚みが約4mm (補強のペーパーボードを含む) となっています。

グッドイヤー製法の靴はリブの高さ5mmの空間に、復元力の低いコルクを充填することと、中底も比較的薄いこともあって、履いていくと中底が足の形に沈み込んでいきます。

それに対し、安藤製靴の靴はリブの高さ3mm空間に充填されているのが、復元力のあるクッション材であることと 中底は分厚く頑丈なため、中底はグッドイヤー製法に対して沈みにくくなっています。(足の指の跡がつく程度)

なんとなくグッドイヤーの方が自分の足の形状に変形してなじみやすい気もしますが、その分堅牢性には劣るのかなと思います。(この辺は好みの問題でしょう。素材がクロムエクセルとグッドイヤー製法の組み合わせは履きこんだら、緩々になりそうで怖いですが...)

 

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図16. アッパー

 

図16は分離したアッパーの写真です。

このホットスタッフはウェルトを使用しておらず、アッパーが直にミッドソールに出し縫いされているタイプです。(パラブーツのHPにも記載があるようにノルウェージャン (Norwegian) 製法の1種です。ノルヴェジェーゼ (Norvegese) 製法と呼ばれることもありますが、フランス語のNorwegianのイタリア語訳がNorvegeseです)

また、縁のテカテカしているのは目止め材の跡でして、このホットスタッフは革靴としては防水性を意識した造りになっています。(目止め材は見た目が嫌な人もいるかもしれません)

防水性が高い理由としては、ウェルトを使用しないので水が入る隙間も無く、水の侵入しやすい縫い目の部分には目止め材が使用されているからです

また、ウェルトを使用しないため、ソールの返りがよくなります。(あくまで安藤製靴の靴の中で比較した場合。一方、ホットスタッフはデザイン的に踵が浅いという特徴もあるので、歩きやすさに関しては自分で確かめるしかないと思います)

このホットスタッフは構造的に登山靴にかなり似ていて、安藤製靴のルーツを感じる実用性重視の製品だと思います。

一方、過去に本ブログで紹介した安藤製靴のOR1やOR2では、ウェルトとアッパーの隙間から水が浸入しやすかったり、目止め材が使われていないため大きな縫い穴から水が入りやすくなっていたりするので、雨の日には注意が必要です。(私の場合、爪先の部分から浸水経験があったので、目止め材ではありませんが下記の防水ワックスをコバの縫い目に塗り込んでいます。目止め材を使用している安藤製靴の靴って意外とあんまり無いです...)

[コロニル] 防水ワックス アウトドアアクティブレザーワックス (Amazon.co.jp)

 

ちなみにリブ部分に空いている縫い目の穴は、下図を見てわかるようにかなり大きいです。(直径2mmくらい)

 

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図17. リブ部分の縫い目の穴

 

このリブに空いた多数の縫い目の穴が水の侵入経路になるので、縫い目の防水処理は絶対にした方がよいと思います。(ガシガシ履きたい方は特に)

なお、安藤製靴のお店の方でも修理の際に依頼すれば、目止め材処理もしてくれるそうです。(防水性を過信して浸水してしまった人がかなりいるのではないかと思います)

 

ホットスタッフの断面図

今回のまとめとして、上記の分解作業を元にホットスタッフの断面構造を書きました。

 

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図18. ホットスタッフの断面図

 

今回、念願の安藤製靴の靴の分解ができて非常に満足しています。

また、シンプルでありながら機能的にも登山靴っぽさを残しているホットスタッフにとてもに惹かれました。(おそらく購入します! → 購入しました(追記))

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残念ながらこのホットスタッフは製造中止の案内が安藤製靴のホームページに掲載されたので、慌てて購入しました。

サイズはOR1よりも0.5㎝大きいサイズでピッタリでした。

私の場合、紐を緩めて履いても踵が浮かないので、紐を解かずにそのまま脱ぎ履きできて気に入っています。(楽ちんで、もっと早く買っておけばよかった...)

  

最後に、下記は途中で紹介しました私がコバの縫い目の防水用に塗り込んでいるワックスです。浸水経験のある方はぜひ試してみて下さい!

 

以上、非常に長くなってしまいましたが、ご覧いただき、ありがとうございました!

 

 

以下、安藤製靴の関連記事です。よろしければどうぞ!

www.build-on-strength.work

 

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